はじめに
『煉瓦の家』は中島卓偉による通算15作目のオリジナルフルアルバム。デビュー15周年を記念してリリースされた前作の『BEAT&LOOSE』とは Vol.1、Vol.2 の関係性があり、Beatles でいうところの『Rubber Soul』と『Revolver』にあたる。
彼いわく Vol.1 と Vol.2 のセパレーションも自然に決まり、『BEAT&LOOSE』が完成した時点で、すでに本アルバムに収録されている15曲も概ねできていたという。
前作はギターが中心のアルバムで今作はベースが中心のアルバムになっている。
卓偉の中で1〜8曲目までがいわゆるA面、9〜15曲目までがB面になるように意識して制作されている。
また、今まで作ったアルバムの中で一番ブリティッシュ色の強いアルバムになっているとも。
本作の楽曲については基本、ギター・ベース・キーボードは全部卓偉が演奏し、14曲目の『東京タワー』についてはドラムも初チャレンジで演奏されている。
01. 大器晩成
- Angerme に提供した一曲
- 本作では卓偉バージョンで収録
- マイナーコードの3つをメインに使用してリフで展開し、メロディだけ変わっていくスタイル
- 洋楽テイストなチューン
- 彼いわく20代のころに書いているともっと長いイントロがついたかもしれないが、30代になり引き算の編曲ができるようになったからこそこんなテイストに落ち着いたという
02. 続けろ
- シングルナンバーの1つ
- 今回のアルバム収録に合わせて、ミックスのバランスが変わったりしている
- 彼のスタイルでは先にシングルを作ってアルバムに入れるスタイルではなく、アルバム曲をすべてつくってからシングルカットするスタイルでやっている
- が、曲が完成した時点で2曲目にすることが決まっていた
- というのもドラムから走るロック定番なチューンのため
- アップテンポなエイトビートで展開する
- デビューしてから15、6年やり続けたことへの思いなどを歌詞にし、ブリティッシュなテイストに仕上げている
03. おまえは持ってる
- 作中で一番短い曲
- 中学3年のころに書いたいた古い曲
- 曲調はストレートなパンクナンバーでシンプルなアレンジ
- 曲自体は古くからあるがアルバム作成時の37歳の卓偉によるアレンジなどを加えてようやく今回アルバムに追加
- すごく昔に書いた曲などをアレンジし直して入れるなども結構好き
04. 一人になろうとしないで
- ポップなチューン
- 歌詞のままだがリスナーや人々を励ますような曲
- メッセージソングになっている
05. 御城寺梨紗 〜all good idols go to heaven?〜
- BEAT&LOOSE を知っている人はニヤッとするかもしれない曲
- ちなみにタイトルは架空の人物
- BEAT&LOOSE に収録されている『サイトウダイスケ』という曲のアンサーソング
- 前作のニュースの続きを読むような意味でアンサーソングになっている
- サイトウダイスケに引き続き芸人のタイムマシーン3号に解説、詞の中でニュースを読んでいる
- 彼らのラジオに参加した際にタイムマシーン3号山本のアイデアでこのような形になった
- Vol.2 のアルバムををつくることは決まっていたので橋渡し的な、ある意味ストーリー性をもたせたようなチャレンジングな曲
- Stone Temple Pilots のようなヘビーなリフにも関わらず、このような歌詞を入れるという面白さがショートムービーのような感じをつくっている
06. 次の角を曲がれ
- ℃-ute に提供した一曲
- Angerme のもそうだけど、完成間近のころ歌ってくれるということで、シングルらしい編曲を加えて提供した
- 卓偉バージョンはブリティッシュソウルに仕上がっている
- The Style Council な感じが好きだからこそ、曲でそれとなく匂わせてきているよう
- メジャーセブンスのコードで展開するが、日本のロックでは少なく、US のロックシーンでも少ない。UK ロックでは多い
- スーツを着て歌うのはどんな曲?といったらこれ
- ギターはエピフォン・カジノを使っており、それでしか出せないサウンドになっている
- ベースはミュートベースで、サステインの短いラインで弾いてる
- イギリスの音楽が好きな人は気にいる一曲
07. ここじゃないとわかっているのに
- The Police とハードコアを足して2で割った感じ
- マイナーチューンだけど途中、ものすごくハードコアになる場面がある
- 冷たい感じの曲調と歌詞を伝える場面、2つが融合されているイメージ
- この曲もずっと昔に作られていたが、やっと今回歌詞がついた
- ポリスっぽいギターの開放弦を使ったリフでメロディを回す
- サビになったら一気にハードコアになる
- 「ここじゃないとわかっているのに〜」の部分はコードが Lady Madonna みたいな仕掛けが入っている (こういう曲は日本に少ない)
- ライブシーンではカオスとして盛り上がる
08. 忘れてしまえよ 許してしまえよ
- ここまでがA面で次の頭からがB面のイメージで構成されている
- シングルカットされた曲。アルバム収録に際し、歌のテイク、ミックスを変えてアルバム用に歌い直し
- バラードとも言いきれない感じ
- すごくヘビーかつアッパーなんだけど、ミディアムスローで歌詞を伝えていくスケールのでかい曲になっている
- 出だしのアルペジオのイントロも開放弦を使っている
- イギリスロックが好きな人は気にいる曲の構成になっている
- 嫌なことや許せないことなどに躓いて前に進めないことあると思うけどそれらさえ忘れてしまおうぜ、というメッセージが込められたリリック
09. (おまえだけが)手に入れられない
- B面の一曲目
- 曲の表記がブリティッシュスタイル
- The Rolling Stones でいうところの 『(I Can’t Get No) Satisfaction』
- 日本ではあまりないタイトル表記
- なのであえてこういうのをやっていきたいよう
- 曲だけ、歌い方だけでいうと沢田研二を意識
- 目が見えないくらいまで帽子を深くかぶって、艶っぽい歌い方をしているのにビブラート少なめ
- 曲は ’70s Disco の感じの雰囲気を出しつつ、サビになるとダンスチューン
- 出だしはマイナーセブンスを使用した暗いコードで始まれり、サビになるとダンスと踊れる部分がある場面展開
- 詞に関してもストーリー性があり、すべてを手に入れた大富豪が唯一手に入れられなかったの女性の話になっている
10. どんなことがあっても
- 先行シングルリリースで一番初めのカット
- 本作リリースからおよそ3年ほど前、卓偉が喉を潰してしまいもう歌うことができないとまで言われたときに、「どんなことがあってもあなたのファンです」「たとえ声が戻らなくなっても歌い続けてください」というファンの声、手紙などに応えるようにしてつくられた曲
11. いじめられっ子
- (卓偉が) 本アルバムの中で1番好きと公言する曲
- ヘビーな曲になっていて、タイトル通りいじめられっ子にフォーカスした一曲
- 卓偉自身小中学校のころいじめられっ子だったときの思いを詞にのせている
- 大人になってそれを乗り越えてきた卓偉が今いじめられっ子に対して残したい気持ちを綴っている
- 自殺などをして自分の世界を終わらせることは決してかっこいいことじゃない
- (いじめっ子に対しては) お前らしょうもないことやってんじゃねえぞ!
- 経験がある自分だからこそ伝えられること、乗り越えられるよ、と曲にした
12. Please Mr.GUARD MAN
- シングルカットされた『続けろ』のカップリングになっている一曲
- スイートソングでかつブラックミュージック
- 詞が面白い
- どこにでもいるような駐車場で働いているガードマンにスポット
- 洋楽ではよくあるが、日本ではこういった日常にフォーカスした歌詞は実は少ない
- スイートソウルというのはラブソングやラブバラードだけじゃなく、こういう日常に転がった詞の世界を音楽、ひいてはロック、ソウルミュージックにのせられると信じて作った曲
- どんな日も雨が降っても嵐が来ようともみんなを笑顔にしているガードマンさんは街の人気者で、街のみんなはその人が好きで、という日常に転がってそうなストーリー性を一曲に閉じ込めた仕上がりになっている
13. 煉瓦の家
- Led Zeppelin 直球のアレンジがほどこされたタイトルナンバーで、煉瓦ジャケットを彷彿させる一曲
- 最後の3曲の流れがとてもいい
- 卓偉いわく「煉瓦の家を建てたい」という歌詞があるが本当は少し違う
- 人生という煉瓦を積上がているイメージ、1枚の大きな絵を描いているイメージで人生を進めている
- 煉瓦というものは積みかさねていくもので、途中で崩れることもあるし、誰かに崩されることもあるし、メンテナンスしないとそれだけでも崩れることもある
- だけどそういうものを積み重ねて、最後自分がもう人生を終えるときに「これだけ積み重ねて家になったな」「1枚の大きな絵になったな」といえるまで続けていきたいという思いを表した曲になっている
14. 東京タワー
- 卓偉が全部の楽器をプレイした (ギター、ベース、キーボード、ドラム)
- 上京した田舎者 (卓偉は福岡出身) にとって「東京という街が自分の街にならない」「何年住んでもそういう気持ちにならない」という思いがこの曲のバックボーンとなっている
- 日本はオリンピックに向かっているし、スカイツリーなどいろいろな観光名所が新しく生まれて、東京を盛り上げていくというスタンスはいいけれど、高度成長期から東京タワーというものが東京ひいては日本を作ったシンボルだったのでは?という気持ちを忘れてはいけないなって気持ちがあり、
- 田舎者だからこそ、東京タワーという憧れが強いし、
- 仕事中などに摩天楼の合間からポッと東京タワーが見えると心が癒やされるし、
- 自分は東京で生きているだなと、ああやって今も何も語らずみんなも見守ってくれているんだなという思いから
- 一気に詞が浮かんだという一曲
- ラストの一曲前だからこそよりいい立ち位置につけた曲
15. PUNKY SIXTEEN BOY
- 本作中で一番の軸となる曲
- 前作の BEAT&LOOSE に収録されている『高円寺』という曲に呼応したような曲
- 自分の人生から切り取って歌えることないかなと思い振り返ったらできた曲
- 15歳で上京してきて初めて住んだ街である江東区 (およそ2年) での生活を描いている
- 新聞配達をしながらミュージシャンを夢みていた
- 全部自分の力で上京してきてしまったから帰る場所もなく誰も信じる人がいない状況で、デビューできるという確約もなく毎日とにかく曲を書きながら仕事しないといけないという思い
- 生活もなにもかも底辺で一番苦しかった時期をノンフィクションで描いた曲になっており約9分という大作
- 曲調はルーツ・レゲエで進んでいく (THE MODS の TWO PUNKSのようなレゲエ)
- 最後は Oasis の All Around The World のコード進行で Beatles の Hey Jude になる
- イギリスの音楽が好きな人には最高な転調したオーラス (エンディング) を迎え大合唱になる
参考